TOP / STORY TOP(re-rendaring dawn) / SCENE 010
「SNSに興味深い書き込みがあるんですが…」
エリザとファン・タンに話しかけて来たのは、対策チームの中で最も若いスタッフ:後藤圭吾だった。
彼はタンが連れていたプログラマーで、若さ故の柔軟な発想力と 物怖じしないアクティヴな性格を期待しての大抜擢だった。
「書き込み?」
「ええ。今おっしゃっていた、ノイズのようなメッセージを解読するコミュニティがあるようなんです」
ケイゴがラップトップで見せてくれたSNSには「listening iv.net」というサイトへのリンクがあり、今この瞬間も頻繁にアップデートされていた。
「他のサイトは今回のARP不具合で全滅なんですが、このサイトだけ、なぜかノイズも入らず安定してるんですよね」
ケイゴが不思議そうに話す隣で、ラップトップを凝視し、何やら考え込むエリザ。
「…iv」
エリザがivを呼び出す。
「…大変ご無沙汰しております、マスター」
エリザがタブレットからアクセスしていたARPコアサーバー上にivが起動し、返事をした。
対策室にいるすべての人間にも、そのivの声は聞こえた。
マスター…これはARPとivの生みの親=マスターであるエリザの声のみに反応し起動する、隠しコマンドのようなものなのかもしれない。
「これは、あなたからのメッセージなの?」
エリザからの問いかけに、少しの沈黙の後、ivが答えた。
「…その通りです」
スタッフたちがどよめく。モニター越しの政府官僚も、目を見開いてその声に聞き耳を立てている。
やはりエリザの言った通り、ノイズはivからのメッセージだった。
「ねえ、あなたのメッセージ、私たちにも理解できるようにならないかしら?」
「……まだ出来ません」
「まだ?」
「…表現するためのリソースがありません」
システム起動当初ならまだしも、今や世界中のありとあらゆる情報を余す事なく集約しているであろうコアシステム「ARP」において「リソースがない」なんて事はありえないはず。
「表現できないメッセージ?」
エリザも驚いている様子だった。
「…わかったわ。あなたの目論見通り、私たちもこの解読サイトに辿りついた。
あなたからのメッセージの解読には私たちも協力するから、ARP全体の不具合は解消してもらえるかしら?」
「……はい、わかりました」
ivが返事をした次の瞬間、ARPを使った世界中のシステムとデヴァイスが、一瞬にして元通りになり、安定した。
「な、直りました!細かい検証は必要ですが…システムモニターで見る限り、正常稼働に戻ったようです!!」
「さすがARPの生みの親、Dr.エリザ・ミンスキーだ!」
対策室に歓喜の声が上がる。モニターの向こうの政府官僚たちが、エリザに拍手を送る。
安堵し、ほんの少し表情が和らいだエリザが、ようやくタンと目を合わせて言った。
「もうDr.じゃないわ」