TOP / STORY TOP(re-rendaring dawn) / SCENE 004
1988年、MIT(マサチューセッツ工科大学)研究室。
パソコンのモニターに向き合い、ひたすらプログラムコードを打つ女性。
「…おお、良い曲だねえ、Japanの音楽かい?イライザ」
今、日本ではCity Popというジャンルの音楽が流行っているらしい。
「ええ「Dress Down」という曲ね。そして何度も言わせないで、私はイライザではなく、エリザよ、ブルックス教授」
開いた研究室のドアの方を振り向く素振りもなく、作業の手を止めぬまま、エリザは答えた。
「わかってるさ、でも良いニックネームだと思わんかね?イライザは世界最高の自然言語処理プログラムで…」
「その話も何度も聞いてますし、当然私も知っています。そして私はそのイライザではありません」
一度もこちらを振り向かないまま淡々と作業を進めるエリザの背を横目に、軽いため息をつく白衣の男性。
彼の名は、Robert Alan Brooks(ロバート・アラン・ブルックス)。
MITの名誉教授であり、彼女、Eliza Minsky(エリザ・ミンスキー)が所属する研究室の室長だ。
「ところでどうだね?例のプログラムは」
2つ淹れてきたホットコーヒーのうち、ひとつをエリザのデスクに置く。
リターンキーを小気味よく叩いたエリザは、オフィスチェアをゆっくり回転させ、こちらを向いて微笑んだ。
「たった今…完成したわ」
プログラムが起動したNEC PC-H98のモニターには「Welcome to ARP : Akashic Records Program」の文字が表示されていた。
天才プログラマー:エリザ・ミンスキーが「ARP」を完成させた、その瞬間だった。
軽快なJapanese City Popが流れている研究室。
コーヒーで乾杯しARP完成を祝った。