TOP / STORY TOP(re-rendaring dawn) / SCENE 003
「その後の進捗は?」
「有事緊急対策室も…あの…お手上げのようでして…」
ARPに不具合が発生してから3日目。
回線の不安定さから、時折ノイズが混じり、お互いの会話もままならないオンラインでの報告会議に、政府官僚のイライラも限界に達している。
アイギアの中に表示されたマルチ画面。そのうちのひとつに映る、いかにも偉そうなスーツの男が怒鳴る。
「ああ?よく聞こえないんだよ!何だその報告は!早く何とかしろ!」
エラそうな政治家の怒号だけはクリアに聴こえる。
「…ちゃんと聞こえてるじゃん。できたらやってますよーだ」
「おい、聞こえるぞ」
文句を口にした若手スタッフを小声で戒めたのは、今回発生したARP大規模障害のために設立された「ARP有事緊急対策室」リーダー:Huang Tang(唐 凰/ファン・タン)だ。
高性能小型マイクを内蔵したマスクデヴァイスを装着していれば、小声だろうが 囁き声だろうが、ハッキリと聞き取れてしまう。
「言いたい事だけ言って、もう回線切られてますから、大丈夫っすよ」
天才プログラマーとしても世界的に有名なファン・タンと、メーカーの垣根を超えてエンジニアやプログラマーの精鋭たちが集められた、ARP有事緊急対策室の優秀なスタッフをもってしても、不具合の解決策はまだ見つからないでいた。
世界政府からの命令を受け、板挟みになる政府官僚たちの空気は重く、悪い。
「やっぱり…あの人しか無理じゃないですかね…」
ARPコアサーバーにログインできる 専用ラップトップと向き合い、ひたすらキーボードを叩くスタッフがそう呟く。
「そうだな…でも、今ここにいない者の話をしても仕方ないだろ」
タンの言葉は、ため息混じりに天井へと消えた。
「ちょっと待て。今の、誰の事だ?」
エンジニアたちの不穏な気配を訝しんだ政府官僚から、質問の声が飛ぶ。
まだ回線を切っていない官僚がいたのか…さっきのやりとりも全部聞かれてしまった…。
タンは嫌味を含まぬよう、できるだけ冷静に答えた。
「…エリザですよ。エリザ・ミンスキー」