TOP / STORY TOP(re-rendaring dawn) / SCENE 002
学校。1時間目終了のチャイム。
前のドアを開けて教室を出ていく教師に見つからぬよう、同じタイミングでうしろのドアをそっと開け、しゃがみながらコソコソと教室に入る。
「あ、きたきた。Good morning !! けど too late !! やで!どうしたん?寝坊か?」
前の席に座る友人がニヤニヤしながら、わざと大きな声をかけてくる。
この、朝から英語と関西弁まじりのうるさい男は 空野・Chadwick・清志郎(そらの・チャドウィック・きよしろう)。
アフリカ系アメリカ人の父と、大阪人の母を持つハーフだ。
クラスのみんなはソラと呼んだり、チャドと呼んだり、僕と同じくキヨと呼んだり、色々だ。
父が日本人、母が日本人とアメリカ人のハーフである我が家と似ている境遇な事もあり、小学校から続くクサレ縁で、仲良くしている親友だ。
「うるせえなあ…その通り、寝坊だよ、ちくしょう」
イヤーモニターを外して眠ってしまったせいで、目覚ましアラートに気づかず、寝坊し遅刻してしまった。
全速力で自転車を漕ぎ、駐輪場から教室のある3階までノンストップで走ってきたため、口元を覆う透明のマスクデヴァイスが荒い息で少し曇る。
今朝は数センチ雪が積もり、耳が取れるかと思うほど とても寒かったが、厚着とマフラーのせいで少し汗ばんでいる。
「でもよかったなあ、1時間目、ある意味 自習やったからな、セーフや」
「ある意味、って何よ?」
マフラーを取り、コートを脱ぎながら聞き返す。
「ARPの不具合で授業のファイルが開けへんかったんよ。パニクってる先生をずっと見てるだけの1時間目。」
「はあ?そんな事あんの?」
意味がわからない。ARPの不具合なんて一度も聞いた事がない。
「朝のニュース、見てへん…わなあ笑」
寝坊した人間がのんびり朝のニュースなんて見ているヒマがない事は、分かった上での意地悪い質問だ。
「プリンちゃん、今朝のニュース映像出して」
キヨが「プリンちゃん」と名付けたivに、指示を出す。
彼の性格からして、きっとエロい感じのお姉さんアヴァターに設定しているんだろうけど、当然、彼のアイギアを通さないと誰にも見えないし、音声も聞こえない。興味ないから別にいいんだけど。
「はいどうぞ、キヨちゃん♡」
とか言ってそう…。
キヨは何もない空間を指でスワイプし、ファイルを操作し始めたが、もちろんこれも僕には何も見えない。
「あった、コレコレ。見てみ」
キヨが目の前の何かを掴んで こちらに投げるジェスチャーと同時に、僕のアイギアにファイルが届く。
たったこれだけで他人とデータ共有ができる。便利な世の中になったもんだ。
「…大規模なARPの不具合につきまして、続報をお伝えします」
今朝のニュース映像のようだ。
世界規模で起きているらしい、世の中のすべてをコントロールするマルチコアシステム:ARPの不具合は、1時間目の授業どころか、電車や飛行機などの交通網や、金融経済、医療現場など、様々なところに影響を及ぼしていて、事故なども起きているようだった。
「えらいコトになっとるやろ!大事件!これはもう授業どころじゃねえ!2時間目からお休み!よし帰ろ!」
キヨが冗談で騒いだ通り、数分後、教室に入ってきた教師から、2時間目以降の臨時休校が告げられ、クラスのみんなは大喜び。
見事 予言が当たったキヨが「ホラ!」と得意げに振り向いた。
起きてからまだ30分も経っておらず、せっかく大急ぎで学校に来たのに、滞在時間たったの5分の僕は思考が追いつかないまま、何がなんだかわからない朝だった。
「一体なんなんだよ…」