TOP / STORY TOP(re-rendaring dawn) / SCENE 001
ピピッ…
着信アラートが耳の中で遠くに響く。
ピピッ…
ピピッ…
どうやらイヤーモニターを付けっぱなしで眠ってしまったようだ。
部屋に時計はない。必要ないから。
「ノノ、今何時?」
ノノは、僕の「iv(イヴ)」の名前だ。
AIアシスタントivは、世界中の情報をすべて集約するマルチコアシステム「ARP」とリンクする、ガイド機能だ。
ユーザーとの対話で学習を深め、その結果をビッグデータとして「ARP」経由で共有しフィードバックする。
世界中のユーザーの数だけ存在するivたちの頭脳はひとつにつながっていて、自ら成長するAIアシスタントというわけだ。
容姿や音声などは自由にカスタマイズでき、名前も変えられるので「iv」をivのまま使う人は少なく、別の名前をつける。
「ノノ」という名前と容姿は、僕の好きな漫画に登場するキャラクターからもらった。
僕の声に反応して、枕元のテーブルの上で充電していたメガネ型アイギアのシステムがスリープから起動する。
“Welcome to ARP”
“Akashic Records Program”
アイギアにロゴが映し出される。
「午前3時32分です。起床予定時間までまだ3時間28分ありますが、どうされましたか?イッタ」
ノノが答える。さっきのアラートは、目覚ましではなかったようだ。
イッタは僕の名前。これでも本名だ。秋草 壱太(あきくさ いった)。
寡黙で真面目な性格の 日本人の父:秋草 流玲(あきくさ ながれ)、明るく活発な性格の 日本人×アメリカ人ハーフの母:愛(アイ)、その母とそっくりの性格で、今は家を出て海外の学校に通っているので しばらく会っていない、自分の方が姉だと主張する双子の妹:悠(ユウ)を家族に持つクォーターの高校1年生、16歳。
成績も運動神経も真ん中、これといった特技もなく、いわゆる普通の高校生だ。
布団から手だけ出してアイギアを取り、装着する。肌に触れる部分が冷たい。
画面に表示されている日付は2025.03.03.Mon.。
1週間のはじまりの夜明け前は、暖房で温まった部屋の中にいても、どこかひんやりと寒く感じる。
カーテンの隙間から、大粒の雪がちらちらと見える。
「…誰だよ…こんな夜中に…」
日時表示の横で点滅する未読メッセージのアイコンに目線を移し、瞬きでダブルクリックする。
目の前に表示されたメッセージの内容は、文字化けなのか…何かのコードのような…暗号のような、ノイズの羅列。
添付されたサウンドなどもない。
「…なんだこれ?」
アイギアの故障だろうか?
気にはなったが、眠さと寒さに勝てず、今度こそ睡眠を邪魔されぬよう アイギアとイヤーモニターを外し、毛布を深く被りなおして再び眠りにつく。
しかし枕元に置かれたアイギアは、スリープする事なく、再びそのメッセージのようなものを受信していた…。